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片頭痛治療② ~急性期治療について~
片頭痛の急性期治療は、「片頭痛発作が始まり頭痛が持続している期間の治療」のことです。
「いつもの頭痛が始まったから、痛み止めを飲もう」という対処法です。
片頭痛の急性期治療は頭痛の程度に応じたstratified care(層別治療)が推奨されます。具体的には以下のようになります。
①軽症~中等症の頭痛発作
アセトアミノフェン、NSAIDs(ロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬)を使用する。
②中等症~重症の頭痛、NSAIDs無効の頭痛
片頭痛急性期治療の第一選択薬を使用する。
③吐き気を合併する頭痛
制吐剤を使用(プリンペラン注、ナウゼリン錠・座剤)する。
日常生活への支障度のレベルに応じた治療で開始するという考えです。
支障度の低い場合には鎮痛薬で、支障度の高い場合には初回治療からトリプタンの投与が適切となります。
(市販の鎮痛薬は片頭痛の軽症例や初期例には有効ですが、薬剤乱用性頭痛の増悪を招く可能性があり注意が必要です。)
急性期治療薬の第一選択薬 トリプタン製剤
片頭痛急性期治療薬の第一選択薬といえば トリプタン製剤 が有名です。一覧に纏めます。
製剤名 | スマトリプタン | ゾルミトリプタン | リザトリプタン | エレトリプタン | ナラトリプタン | |
商品名 | イミグラン50mg錠 | イミグラン点鼻液20 | ゾーミッグ | マクサルト | レルパックス | アマージ |
2.5㎎錠、2.5㎎RM錠 | 10㎎錠、10㎎RPD錠 | 20㎎錠 | 2.5㎎錠 | |||
用法 用量 |
1回1錠 | 1回1個 | 1回1錠 | 1回1錠 | 1回1錠 | 1回1錠 |
1回2錠投与可.1日最大4錠まで.追加投与は2時間以上あける. | 1日最大2個まで.追加投与は2時間以上あける. | 効果不十分の場合1回2錠投与可.1日最大4錠まで.追加投与は2時間以上あける. | 1日最大2錠まで.追加投与は2時間以上あける. | 効果不十分の場合1回2錠投与可.1日最大2錠まで.追加投与は2時間以上あける. | 1日最大2錠まで.追加投与は4時間以上あける. | |
Tmax | 2~2.5時間 | 1.3時間 | 1~4時間 | 1~1.3時間 | 1~2.8時間 | 2.7時間 |
T1/2 | 2~2.2時間 | 1.9時間 | 2.4~3時間 | 1.6~2.0時間 | 3.2~3.9時間 | 5~6時間 |
特徴 | 水溶性で中枢移行・乳汁移行が小 | 効果発現まで10〜15分と早い | 効果は高いが締め付け感・ふわふわ感が幾分高い | 立ち上がりが早く半減期も早い | マイルドな効果で締め付け感なども少なめ. | 中枢移行性が少ない.最も持続時間が長い. |
トリプタン製剤 服用タイミング
トリプタン製剤の服用タイミングですが、「これは片頭痛だ」と覚知したときに服用をすることで効果が得られやすい事はご存じの通りです。
これだけでは患者さんにはピンとこないことが多いので、一例として、
など、患者様にも分かりやすいように工夫してお伝えすことがあります。
予兆期および前兆期に使用することは血管収縮のリスクになるなど一時期話題になったようですが、実際にはそんなことはないと頭痛学会から示されており、服薬のタイミングは、発症から1時間くらいまでが効果的とされています。
しかし、片頭痛発作が始まってから1時間以内に服用するようにと決まっておりますものの、1時間を超えての服用となる事は容易に想像されますし、1時間を越えて服用すると副作用を経験しやすくなります。
結果、「頭痛が始まってちゃんと片頭痛発作だと確認して、漸く飲んだのに逆に副作用で辛くなったし効果もない、もうトリプタンは処方しないくていいです」とおっしゃる患者さんが多いのも理解できます。
実際に働き盛りの世代の方が、日中活動中に頭痛が始まり・・・片頭痛かな?様子を見よう・・・と様子を見ているうちに片頭痛だと分かり、服用しようと決めた頃には頭痛発症から既に1時間は過ぎ去ってしまっていることは寧ろ自然かもしれません。
過去データでみると、56%が頭痛が我慢できなくなって漸く服薬していますし(診断と治療 2005; 93 1859-1865)、4割以上の人は服用するのは発作から1時間を超えてしまっている(臨床医薬 2005; 21: 97-117)ことが分かります。
更に具体的な過去データ(J Headache Pain. 2019; 20: 68)から、片頭痛の急性期治療薬は4割近くの患者様で有効性が不十分です。
他の疾患を考えて頂きたいのですが、急性期治療を受けても4割近くもの高い割合で効果が不十分というのは見劣りすると言ってよいかもしれません。
満足のいかない治療薬しかなかったために、旧来の治療しかしてくれない医療機関に対して辟易とした態度をとる患者さんがいることも理解できます。
頭痛診療ガイドライン2021によると、現時点における理想的な片頭痛急性期治療とは、
② 普段と同じレベルの活動が可能となり
③ 不快な有害事象がないか、最小限であること
とエキスパートオピニオンにより規定案が示されています。
さらに、トリプタン製剤は虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)や脳血管障害(脳卒中、一過性脳虚血発作)の既往歴のある片頭痛患者様には使用できません。
また、これらの既往歴がないもののトリプタン製剤を使用後に直接的な関連があるとは言えないものの脳血管障害が発症する例も見られると聞きます。
加えて、片頭痛のなかでも脳底型片頭痛をお持ちの患者様には高頻度に副作用が生じます。
待望の新薬 ラスミジタン
こういった背景の中、新薬が日本でも使用可能となりました。
ラスミジタン(商品名レイボー)は片頭痛発作の急性期治療薬として開発された、低分子の選択的セロトニン1F受容体作動薬です。
画像 https://www.lillymedical.jp/ja-jp/reyvow
従来の急性期治療ではおおよそ現代の治療としては不足がある事が上記から伝わったかと思います。そんな中、待望されていたラスミジタンが2022年から国内でも使用可能となりました。
先んじて米国では2019年10月に「成人に対する前兆を伴う又は伴わない片頭痛の急性期治療」を適応として承認されております。日本でも適応は同じです。
ラスミジタン特徴
①作用機序
ラスミジタンは世界初のジタン系薬剤でセロトニン1F受容体へ選択的に結合します。従来薬のトリプタン製剤はセロトニン1B受容体に作用し血管収縮を誘発しますため、トリプタン製剤を処方し冠攣縮性狭心症を引き起こした症例、脳血管攣縮を起こし脳虚血や脳出血や雷鳴頭痛や吐気・嘔吐を引き起こした症例は少数ながら見聞きしております。ラスミジタンはセロトニン1F受容体に選択的に結合しますため、冠動脈疾患、脳血管障害、下肢動脈閉塞症などで禁忌となるトリプタン製剤と違って、それらの既往症へは禁忌とされていませんので使いやすいと言えます。
②服用のタイミングが1時間以内に縛られない
片頭痛発作開始から1時間以降に服用しても有意差をもって片頭痛の改善と消失に効果を示しますので臨床現場において大きな福音となっています。というのも、片頭痛患者さんは社会で活躍している年齢層であることが多いため、服用タイミングを発作開始1時間以内と限定されないことは大変なメリットだからです。
③有効率が高く効果発現が早い■
30分後ないしは1時間後に頭痛が改善した患者様は約60%(頭痛消失は16%)であり、2時間後には頭痛が改善した患者様は80%弱(頭痛消失は35~40%)ですので、従来薬より早期に効果を発揮します。頭痛が完全に消失せずとも、重度の片頭痛発作が軽度か中等度にまで改善することで、頭痛が有る時だけでなく頭痛が無い時の制限(片頭痛発作の予期不安による積極性や生活レベルの低下)も軽減できることも分かっています。
また治療効果には容量依存性(頓服容量が50㎎、100mg、200mgと多い程頭痛の改善・消失率が高い)傾向にあることも特徴であり、患者様の状況に応じて容量を細かに設定できますのでより良い治療に結びつけやすい事も特徴です。
④発作時のみでなく、長期有効性も示されている
速やかな効果発現のみならず、片頭痛の再発がなく24時間後までの長期間も有効であった患者様が多いことも特徴とされています。
また、MIDAS総スコア(片頭痛関連の支障度を定量化する自己評価スケール)で片頭痛発作時以外の生活支障度を1年間の経過で追って確認してみると、その平均値が29(重度障害レベル)から15(中等度障害レベル)にまで改善することも分かっています。
⑤副作用として眩暈と眠気が比較的多い
ラスミジタンの欠点としては、眩暈と眠気が比較的多く報告されていることです。そのため、屯用で服用する場合は自動車の運転などの危険を伴う機械の操作は避けるように意識して頂く必要があります。
多くの片頭痛患者様を診療していますが、ラスミジタン内服で副作用が全くない患者様が多数であるものの、少数の患者様にとっては浮動性めまいを強く生じてしまう、といったように二極化しているようです。
当院では頭痛診療に長く携わり、ラスミジタンの使用経験も豊富な医師が対応します。
片頭痛患者様が頭痛で悩まされる煩わしさから一日でも早く解放されるようお手伝いします。
いつでも小禄セントラルクリニックにご相談下さい。