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てんかんと運転について
前回までは、てんかんをお持ちの患者様が気になる日常生活と発作時の対応についてお伝えしました。
今回は、てんかんと運転についてです。
特に沖縄県は自動車での運転が生活に密着しているので特に気になる内容かと思います。
自動車運転免許取得において、てんかんであることは相対的欠落事由となっています。
少なくとも発作が2年以上なく状態が安定していれば運転は許可されています。
また、必ずしも運転禁止とはならない発作もあります。
しかし、新たに制定された自動車運転死傷行為処罰法では、注意義務を欠いて起こした交通死傷事故に対しては罰則が強化されました。
1. 社会におけるてんかん患者の運転免許取得
過去には長い間、てんかんというだけで運転免許取得の絶対的欠落事由とされ運転免許取得は許可されていませんでした。
しかし、現在では一定の条件を満たせば免許取得は可能であり正当な手続きで免許を取得・更新するてんかん患者さんは増加しています。
自動車運転免許取得を含めた自動車運転への制限はてんかんを持つ人の自立と生活の質(QOL)、生活の便利化、就労率に影響を及ぼしていると考えられます。
人工知能を含む技術の進歩は目覚ましく、完全自動運転も遠くない未来の出来事で今後も道路交通法を含め社会は変わっていくものと考えられます。
2. 道路交通法でのてんかんの記載
てんかん患者はその重症度(発作頻度、発作内容)によって免許取得の可否が判定されます。
表に示すように、少なくとも2年以上発作がない事が取得の前提条件となります。
表 道路交通法施行令第三十三の二の三、一定の病期に係る免許の可否等の運用基準(抜粋)
道路交通法施行令第三十三の二の三
2 発作により意識障害または運動障害をもたらす病気で政令で定めるものは、次に掲げるとおりとする。
てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないものならびに発作が睡眠中に限り再発するものを除く)
一定の病期に係る免許の可否等の運用基準
2 てんかん
(1) 以下の何れかの場合には拒否などは行わない
ア 発作が過去5年以内に起こった事がなく、医師が「今後、発作がおこるおそれがない」旨の診断を行った場合
イ 発作が過去2年以内に起こった事がなく、医師が「今後、X年程度であれば発作がおこるおそれがない」旨の診断を行った場合
ウ 医師が1年間の経過観察の後「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合
エ 医師が2年間の経過観察の後「発作が睡眠中に限って起こり、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合
(附)中型・大型免許および第二種免許
中型免許8t限定を除き、通常は適正はないが投薬治療なしで過去5年間発作がなく、今後も再発の恐れがない場合は例外である。(以下略)
3. てんかん患者の自動車運転適性と運転能力
てんかん患者の事故リスク比は一般人口と比べ1.33倍とされています。
参考データです。
無発作期間1年で2.1倍、2年で1.55倍の事故リスク✔日本てんかん学会から;
無発作機関0.5年で1.38倍、1年で1.23倍、2年で1.16倍のリスク✔日本の臨床研究から;
てんかん患者による全交通事故の中で18%が発作による事故で、その23%は初回発作による事故(防ぎようのない事故)だった。
日本の全人口と比較し、てんかんでなくとも20代男性は1.70倍、65歳以上の準高齢者は1.32倍の事故リスクであった。
事故リスクは必ずしも高くありませんが、てんかん発作が自動車事故の原因となったとき、結果として大きな死傷事故が目につく(生じた)ために社会的に注目されるようになった経緯があります。
4. てんかん患者の運転における注意義務
道路交通法には「過労運転などの禁止」事項があり、てんかんではない人も体調不良時や薬物を服用したときは運転を控えなければなりません。てんかんでなくとも注意義務があり、発作が安定し運転免許を保持するてんかん患者でも体調不良時には運転を控えるべきという注意義務があります。
以下をみて分かるように、現行の法ではてんかん以外の疾患と同様にルール遵守が求められます。
a. 患者さんが運転停止を受け容れない場合、および受け容れず運転している事が明らかな場合は公安委員会に医師が診断結果を個人情報を含めて届け出ることができるとされています。医師にも間接的に責任を持たせることとなります。
b. 運転免許更新などの際には、主に発作に関する『質問表』の記載が求められます。虚偽記載や発作未申告には罰則(1年以下の懲役または30万以下の罰金)が設定されています。
c. 自動車運転死傷行為処罰法では新たな刑罰が設けられ、てんかんもその対象の疾患に含まれています。
つまり、てんかん患者さんが発作を生じる可能性が高い不安定な時期にあることを自覚しながらも運転して実際に事故を起こし人を死傷させると、過失運転致死傷罪でなく危険運転致死傷罪が適用されます。
負傷させれば12年以下、死亡させれば15年以下の懲役となります。
適切な服薬管理のもとで発作が2年以上安定していれば運転許可は法的に可能となる一方で、てんかんでない人と同様に違反による罰則が明文化された(厳罰化された)と言えます。
但し、ルールを守り自己管理をしておけば厳罰に処される事はないであろうという点には留意して下さい。
5. 抗てんかん薬の取扱について
抗てんかん薬の薬剤添付文書には「眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下の可能性を理由に自動車運転に従事させないよう注意する」とあります。
しかし、これは現実とは矛盾しているので『抗てんかん薬を服用する全ての患者』に適用されるのではなく、『自動車運転等に支障をきたす副作用が生じていると考えられる患者』のみに適用されるべきとてんかん学会から見解が提出され、医薬品医療機器総合機構でこの矛盾が議題にあがっています。
処方の副作用で眠気が強い場合などは、発作が長期安定していても自ら運転を控え、服薬調整を主治医と相談するようにしましょう。